公開会社がストック・オプションを従業員に対して発行する場合の株主総会決議(特別決議)の要否について、記載されているものが少ないので、以下に掲載いたします。

 

○ストック・オプションは、新株予約権である。

○新株予約権の発行は、公開会社の場合、原則、取締役会決議で可能。

○しかし、有利発行の場合は株主総会の特別決議が必要(会社法238条3項1号)

○ストック・オプションが無償であっても、職務執行の対価として妥当であれば、有利発行ではない。

○「経済的に合理的な行動を行う企業が自社株式オプションや自社の株式を付与または交付するからには、それは基本的に対価性を有すると考えられる」(ストック・オプション会計基準29項)

○取締役に対するストック・オプションの無償発行には以下の2つの方法がある。

(無償構成)

新株予約権を正当な職務執行の対価として整理して、非金銭的かつ評価額が確定したものであることから確定額報酬として、会社法361条1項1号・3号の決議(取締役の報酬に関する決議)をとった上で支給する方法。

(相殺構成)

公正な価額で発行し、その払込金額を取締役に支払うべき金銭債権と相殺する方法。この場合、報酬として付与するのは金銭債権であることから、取締役に対する金銭の報酬として株主総会で決議されている枠内であれば、特段の決議を要しない。

○しかし、取締役と異なり、従業員の場合、労働基準法24条1項の、賃金全額払いの原則および賃金通貨払いの原則との関係が問題となる。無償構成をとれば、賃金通貨払いの原則との関係が問題となるし、相殺構成をとれば賃金全額払いとの関係が問題となる。

○「改正商法によるストック・オプション制度では、権利付与を受けた労働者が権利行使を行うか否か、また、権利行使をするとした場合において、その時期や株式売却時期をいつにするかを労働者が決定するものとしていることから、この制度から得られる利益は、それが発生する時期および額ともに労働者の判断に委ねられているため、労働の対償ではなく、労働基準法第11条の賃金にはあたらないものである。したがって、改正商法によるストック・オプションの付与、行使等にあたり、それを就業規則等にあらかじめ定められた賃金の一部として取り扱うことは、労働基準法24条に違反するものである」との旧労働省の通達がある(平成9年6月1日基発412号)。この通達が、「労働基準法第11条の賃金にはあたらない」としているので、労働基準法24条1項の、賃金全額払いの原則および賃金通貨払いの原則の問題は生じないとの考え方ができる。しかし、ストック・オプションの利益は、それを行使し、さらに株式を売却することにより得る①現実的利益と、②権利付与時の利益の2種類があるが、この通達は①現実的利益について述べている。一方、会社法では、新株予約権の有利発行は、②権利付与時の利益について問題となる。したがって、会社法上の有利発行か否かの判断は、この通達とは別個に行われるべきものとも考えられる。

○無償構成をとる場合、賃金の要件である「労働の対償」であること(労働基準法11条)よりも、有利発行か否かの判断の「職務執行の対価」の方が広い概念であると捉える必要がある。たとえば、ストック・オプションが任意的恩恵的給付である場合、「労働の対償」ではないが、「職務執行の対価」ということはできよう。

○相殺構成をとる場合、会社側から相殺することは、賃金全額払いの原則に抵触する。したがって、相殺構成をとる場合は、少なくとも①従業員側から相殺の意思表示をするか、②従業員と使用者との間で相殺契約を締結する必要がある。

 

【私見】

会社法の有利発行規制に対する立法趣旨は、既存株主の保護であるが、ストック・オプションを、役職員に無償発行することが有利発行には当たらないと解するのが、会社法的アプローチの通説である。一方、平成9年の労働省通達の背景にある考え方は、給与をストック・オプションで代替してはならないとの考え方であると思料される。そうであるならば、従業員に対するストック・オプションが任意的恩恵的給付であれば、有利発行にはあたらず、かつ労働基準法24条にも抵触しないと考えられるのではなかろうか。最高裁が、ストック・オプションの権利が一定の執行役員および主要な従業員に対する精勤の動機付けなどのために職務遂行上の対価として付与される以上、その権利行使利益も給与所得に該当すると判示している(最判H17.1.25)こととも、従業員に対するストック・オプションの付与は有利発行にはあたらないという解釈は整合性があると思われる。

念のため有利発行として株主総会の特別決議を経るという扱いは実務的に馴染み易いが、会社法的には本来有利発行とは考え難いものを有利発行として扱っている点に、理論的に説明し辛い難がある(実務的には、説明の理論的明快さよりもリスク回避が重視されるので、有利発行として扱っているものと思われる。また、手続的にも、どちらが簡便とは一概には言えない点も株主総会決議を経ている理由の1つと思われる)。