死亡退職金について、退職金規定等で、特定の受取人が明確である場合、その受取人固有の財産で、相続財産ではありません。(相続税上は、みなし相続財産です)

では、そのような規定がない場合はどうでしょうか。特に役員の死亡退職金については、退職金規定が存在しないことが中小企業では多くあります。

そこで裁判例を調べてみました。

【遺族固有の財産とするもの(相続財産ではないとするもの)】

ア 大阪家裁昭和53年9月26日

まず死亡退職金についてであるが、亡繁が死亡当時勤務していた○○○○○○株式会社においては、退職金の支払いに関し、同会社社員賃金規則があるが、それによれば死亡退職金の受給権者につきなんらの規定もないところ、同会社の死亡退職金の支給慣行としては、相続人のうちで被相続人と最も密接な生活関係を有していた者に支給されていることが認められ、現に本件においてはその慣行にしたがい、亡繁の死亡退職金はエツ子に支払われているのである。したがつて、本件においては、死亡退職金の受給権者は相続人ではなく、相続人のうちで被相続人と最も密接な生活関係を有していた者であり、かつその者が、同会社社員賃金規則並びに死亡退職金支給慣行により、直接会社から死亡退職金を受給するものとされているのである。してみれば、エツ子が既に受給している亡繁の死亡退職金はエツ子がその固有の権限にもとづき直接○○○○○○株式会社から取得したものであつて亡繁の遺産ではないというべきである。

イ 東京高裁昭和59年1月30日

本件退職金が亡五郎の生前における厚生会に尽した功労に対する報償の性質を含むことは当事者間に争いがないが、≪証拠≫によれば、厚生会の理事会において退職金支給の相手方を亡五郎の配偶者である控訴人と決議したのは、控訴人が亡五郎の生前同人の厚生会の運営その他を物心両面にわたり支えた内助の功に報いるためであり、その形式として東京都職員退職手当に関する条例、同施行規則等において配偶者が第一順位とされていることに倣った結果であることが認められるから、厚生会の理事会の意思が控訴人個人に対して退職金を支給する趣旨であったことはむしろ明確であるといわなければならない。

ウ 最高裁昭和62年3月3日(イの上告審)

亡福田七郎(以下「七郎」という。)は財団法人○○会(以下「○○会」という。)の理事長であつたこと、七郎の死亡当時、○○会には退職金支給規程ないし死亡功労金支給規程は存在しなかつたこと、○○会は、七郎の死亡後同人に対する死亡退職金として2000万円を支給する旨の決定をしたうえ七郎の妻である被上告人にこれを支払つたことは、原審の適法に確定した事実であるところ、右死亡退職金は、七郎の相続財産として相続人の代表者としての被上告人に支結されたものではなく、相続という関係を離れて七郎の配偶者であつた被上告人個人に対して支給されたものであるとして七郎の子である上告人らの請求を棄却すべきものとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。

【相続財産であるとするもの】

A 東京地裁昭和45年2月26日

一般に、死亡退職金については、本人の勤続に対する功労報償たる性質を有するもの、本人の賃金の後払たる性質を有するもの、本人死亡後の遺族の生活保障たる性質を有するもの等があり、具体的には各場合に応じそれぞれの性質を有するものと考えることができるが、前二者の場合にも実質的には一種の遺族保障の性質を有することを否定し去ることはできない。しかしながら、特別の事情の認むべきもののない一般の死亡退職金については、通常本人の生前の労務に対する報償としての性質を多分にもつものであると解し、これにもとずいて権利関係を定めるのが相当である。まして、本件における青木時松のように会社の代表取締役又は取締役会長として、終始直接会社経営に当つてきた者については、生前の会社経営に対する功労報酬にほかならないものとみられ、遺族の生活保障としての実質は著しく後退するものと考えられる。そして、このような場合には、右退職金請求権は、本来的には本人自身の権利に属していたものと理解することができ、同人の死亡によつて、他の本人所有の財産と同様相続財産に帰属したものとして、これと同一に処理されるべきものと解するのが相当である。

B 東京家裁昭和47年11月15日

上記認定の死亡退職金については、そもそも死亡退職金は支給を受ける遺族補償的性格を有するもので、支給を受くべき者の固有の権利であつて遺産には属しないとする見解が有力であるけれども、本件死亡退職金の支給について会社で何らかの規定をしていることにつき何らの資料がない以上、本件被相続人の死亡退職金の受給権者は相続人全員と推認すべく、しかるに、後述するように当事者は死亡退職金について遺産分割協議に含めて協議し、その取得者を共同相続人の一人と定めているものであるから、これを本件遺産分割において遺産の範囲としてその価額を算定するのが本件遺産分割の公平をもたらす所以と考え、これを遺産の範囲に加えてその価額を合算すべきものとする。

以上の裁判例を踏まえれば、退職金の支給事由によることになります。役員の退職金の場合、その支給に株主総会の決議が必要になりますが、特定の遺族(例えば、妻)の固有の財産として支給したい場合は、株主総会でその理由を、例えば、「内助の功」とか「妻の生活保障」とすべきです。逆に、支給事由を亡くなった役員の「功労報奨」とすると相続財産とみられる可能性が高くなります。

なお、相続税上は、いずれでも「みなし相続財産」となります。