1 判断能力が低下している人の遺言-意思能力が必要
遺言が有効に成立するためには、遺言をする時に遺言者が意思能力を有している必要があります(民法903条)。意思能力とは、自己の行為の意味と結果を理解することができる能力をいいます。

2 被後見人や被補佐人は遺言書を作れないか
被後見人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある者、すなわち、通常意思能力を欠く状態にある者で、家庭裁判所が後見開始の審判をした者をいいます。
被保佐人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者で家庭裁判所によって補佐開始の審判を受けた者をいいます。
わかりやすくいえば、老人であれば、完全に呆けた状態が被後見人相当で、そこまでいかないがそれなりに呆けた状態が被保佐人相当で、いずれも家庭裁判所の審判を受けると、被後見人や被保佐人になります。被後見人や被保佐人は民法で行為能力が制限されています(民法9条、13条)。
では、このような被後見人や被保佐人は遺言書を作ることができるのでしょうか。答えはケースバイケースです。
まず、遺言には、民法の被後見人や被保佐人について民法が行為能力を制限する規定は適用されません(民法962条)。したがって、遺言に相応しい意思能力を備えている人であれば、被後見人や被保佐人でも遺言することができます。ただし、被後見人については事理を弁識する能力を欠いた状況にあるので、遺言することができるのは、事理を弁識する能力を一時的に回復した時に限り、また、能力の存否について争いが生じないように、遺言の席に2人以上の医師が立会い、かつ、遺言者が遺言をする時において、精神上の障害により事理を弁識する状態になかったことを遺言書に付記して、これに署名し、押印しなければなりません(民法973条)。

3 判断能力が低下している人が作った遺言書は有効か
被後見人の場合は手続きが明確なので問題ありませんが、実際に揉め事が多いのは、呆けているにもかかわらず、被後見人の審判を受けていない場合です。まわりを見渡しても、認知症が進んでいても、被後見人の審判を受けていない人が多いでしょう。このような方が作った遺言書が相続が発生してから見つかった場合、遺言書により貰える財産が減った相続人から、遺言書を作った当時、遺言者は認知症が進んでいたので、遺言に相応しい意思能力を有しておらず、遺言書は無効だと訴えられることが結構あります。
したがって、呆けてきている人が遺言する場合、まず、遺言に相応しい意思能力を有しているかを判断する必要があります。そして、その物差しとしては、長谷川式簡易知能評価スケールが使われることが多いです。しかし、長谷川式で何点以下だと無効というような絶対的基準がある訳ではありません。総合的に判断されます。
そこで、呆けてきている人が遺言する場合、相続発生後にその能力について争いが生じた場合に備えて、遺言時に意思能力があることの証拠を準備しておくことが重要です。遺言無効確認の訴訟が相続後に起こされた場合、遺言時に意思能力があることの証拠として何が有効かは専門の弁護士でないとわからないことが多いと思います。

4 信頼できる弁護士に依頼しましょう
判断能力が低下している人の遺言は弁護士が関与しないで作ると、却って相続発生後に大きな揉め事になってしまう可能性があります。判断能力が低下している人の遺言書をつくる場合は、是非信頼できる弁護士に相談しましょう。